先に結論を書く。
私はリウマチではなかった。
少なくとも、リウマチ専門医には「リウマチでも、リウマチ先行状態でもない」と言われた。
けれど、そこに辿り着くまでに、私は一度「免疫抑制剤を飲むしかないのか」とかなり追い詰められた。
昨年12月中旬、右手首を痛めた。
そのうち治るだろうと思っていたが、年明けには何もしていなくても痛むようになり、キーボードを打つのもきつくなってきた。
近所の整形外科を受診した。
レントゲンでは「骨折していない」と言われ、ひとまず安堵した。ついでに受けた骨密度検査では、20代平均の120%という謎に強靭な骨密度を叩き出した。骨だけはやたら元気。中身との温度差がすごい。
湿布をもらったが、一週間経っても痛みは引かなかった。生活に支障が出るほどだったので、今度はペインクリニックを受診した。診断は「右手首関節痛と思われる」。原因ははっきりせず、手技療法のリハビリに通うことになった。
しかし、1か月通っても改善しない。
知人の勧めでスポーツ整形外科へ行くと、触診とレントゲンから「TFCC損傷」と診断された。そこから右手首の固定が始まった。入浴時以外はずっと固定である。

思い返せば、格闘技の練習中、右手首を殴って払うような動きを何度もしていた。相手は男性で、かなり強かった。「痛い!」と思わず声を上げたが、コーチには「耐えて!」と言われた。今思えば、耐える場面を完全に間違えていた。
その後、格闘技は休会した。手続きに行った時、コーチが「自分も両手首TFCC損傷で、リハビリで誤魔化して生きている」と言った。
いや、そんな告白を今されても困る。格闘技界、手首に厳しすぎる。
それでも一向に良くならない私を見て、リハビリ先の理学療法士が「手外科に行ってみたら」と提案してくれた。
手外科。そんな科があることすら知らなかった。
手外科ではMRIを撮った。
その結果、「TFCC損傷と三角骨骨折」と診断された。
ここで初めて、骨折していたことが分かった。最初のレントゲンでは見つからなかった。レントゲンだけでTFCC損傷を見抜いたスポーツ整形の医師は、今思えばかなり鋭かったのかもしれない。
一方で、スポーツ整形では改善しない私に、手の甲へかなり痛い注射をされた。そして「固定具を外して様子を見よう。次に改善していなければMRIを撮る病院を紹介する」と言われた。
だが私はすでに手外科に行っていた。
そのことは言わなかった。
手外科の医師には、「病院はどちらかにした方がいい。固定具を外すのは早すぎる。注射は痛み止めの麻酔であって、治療ではない」と言われた。
私は手外科に絞ることにした。
その頃から、左手首も痛くなることがあり、肩も凝って痛むようになってきた。理学療法士は「右手が使えないから左側に負担が集中しているのでは」と言った。
しかし手外科の医師は違った。
「そんなにあちこち痛いのはおかしい。リウマチの検査をしてみようか?」
血液検査を受けた。
結果は、ほとんどが理想的な数値だった。
ただ一つを除いて。
リウマチ因子定量。
基準値は15以下。
私の数値は187 IU/mL。
数字だけ見れば、なかなかの暴れ馬である。
手外科の医師は「なんか変だなぁと思っていたんだよなぁ」と言い、紹介状を書いてくれた。
「内科の先生だけどリウマチも診ているから。もしかしたら何でもないって戻ってくる可能性もあるけど」と。
翌日、紹介された個人病院へ行った。
検査結果を見た医師は、右手首をエコーでさっと診て、「リウマチの可能性があるから投薬を開始します。まず、薬が飲めるかどうかの検査をしてもらいます」と言った。
私は大きな検査病院で血液検査とレントゲンを受けた。
一週間後、結果を聞きに行くと、こう言われた。
「投薬に問題はありません。リウマチの可能性があるので、免疫抑制剤を飲んでもらいます」
ここから、私の中で急に話が重くなった。
免疫抑制剤。
私にとっては、「可能性があるから、とりあえず飲む」という感覚では受け止められない薬だった。
そこから数日間、本を読み、ネットで調べ、AIにも質問し、仕事そっちのけで調べまくった。
そこで、ふと思った。
あの医師はエコーを診ている時、特に説明をしていなかった。写真や動画を保存している様子もなかった。
では、どうやって経過を見るつもりなのだろう。血液検査だけなのか。
疑問が消えなかった。
3日目、私は病院を再訪した。
「免疫抑制剤を飲みたくないです。左手もエコーで診てほしいです」
そう伝えた。
すると医師は、「リウマチの可能性があると言ったけど、リウマチです。確実に変形するので、免疫抑制剤を飲むことを強く勧めます。こちらはそれがいいと思って出しているんだから」と言った。
私は左手のエコー検査をしてもらい、そこで質問しようと思っていた。
しかし検査はされなかった。
この時点で、私はかなり追い詰められた。
薬を飲むべきなのか。
飲まなければ変形するのか。
でも本当にリウマチなのか。
なぜ説明がこんなに少ないのか。
病名よりも、納得できないまま進んでいく感じが怖かった。
その後、代替療法系の鍼灸院にも行った。そこでいろいろな話を聞き、施術を受けた。劇的に何かが変わったわけではない。ただ、心の支えにはなった。
ただし、その説明が医学的にどこまで正しいか、私には判断できない。救われたことと、正しいことは別問題だと思っている。
それでも不安は消えなかった。
この頃の私は、電車の中で本を読むことも、歩きながら講座を聞くこともできなくなっていた。
ただ、ぼーっと景色を眺めるだけだった。
追い詰められた人間が「もういいや」と判断を手放してしまう感覚を、少しだけ理解した気がした。
怖いのは、絶望そのものより、考える力が削られていくことなのだと思った。
そんな時、以前からAIに何度も言われていた「セカンドオピニオン」を思い出した。
正直、最初は行く気がなかった。
どうせ医者同士のつながりもあるし、前の診断を覆すことなんてないだろうと思っていた。病院を検索しても、全部同じ仲間に見えた。
でも、もう一度調べてみた。
すると、リウマチだけを診ている個人病院が見つかった。リウマチ専門医で、指導医でもあり、診療歴も長い。ネットの口コミを丸ごと信じる気はないが、少なくとも「糖尿病も腎臓内科もリウマチも診ます」という若い医師より、リウマチに関する経験は明らかに多そうだった。
翌日電話すると、即日予約が取れた。
病院へ向かう電車の中でも、私は本を読めなかった。
少し早く着いたので、近くの公園のベンチに座った。木の下で、さわさわ揺れる葉の音と木漏れ日を見ながら、ただぼーっとしていた。
診察では、MRI画像や血液検査の結果を一式提出した。
医師は両手を入念にエコーで診ながら、素人にも分かるように丁寧に説明してくれた。
どこを見ているのか。
何がリウマチらしい所見なのか。
何が違うのか。
そして結果はこうだった。
「リウマチでもなんでもない。リウマチ先行状態でもない」
その言葉を聞いた瞬間、心底安心した。
生き返った気がした。
もちろん、今後もし腫れたり、明らかな異常が出たりすれば、また診てもらう。
でも、その時はこの病院に行く。
この医師が「投薬が必要」と言うなら、私は受け入れられると思った。
なぜなら、説明があったからだ。
検査の意味が分かったからだ。
私は納得できたからだ。
頼んでもいないのに、エコー写真も何枚もくれた。
病気かどうかも大事だ。
でもそれと同じくらい、患者が納得できる説明を受けられるかどうかは大事だと思う。
今回、私はリウマチではなかった。
少なくとも、専門医にはそう言われた。
これでようやく安心して右手首の治療に専念できる。
ただし、私の検索履歴とAIとの会話履歴だけは、しばらく「リウマチ祭り」のままだと思う。
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