小堀遠州の風雅な奉行所、今は団地の擁壁になっていた

小堀遠州の風雅な奉行所、今は団地の擁壁になっていた

🍁 京都府の史跡

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団地の擁壁のほんの一角。そこだけ場違いな古い石垣が、雑草に覆われて残っている。

これが、かつて小堀遠州が築いた伏見奉行所の痕跡である。

1868年、鳥羽・伏見の戦いで砲火にさらされ、奉行所の建物は焼失した。しかし地中には、石垣などの遺構が残った。

明治以降は、陸軍(伏見工兵第十六大隊など)の用地となり、戦後は米軍キャンプになった。返還後に団地がつくられた。建て替え工事に伴う発掘調査で、地中から伏見奉行所の石垣が出土した。その石垣の一部が、現在も団地南西角に保存・展示されている。

旧伏見奉行所の石垣から擁壁沿いに徒歩数十秒も行くと、上部がぶっ壊れ、石が斜めに欠け、雑草に半ば飲み込まれた残念な姿で建つ石碑に出くわす。なんとも可愛らしい丸文字で「常盤御前就捕処」と記してある。


ところが、「ここで常盤御前が捕まった」と裏付ける史料があるわけではない。当時この辺りには常盤井という伏見の名水の1つがあった。常盤井という名称から常盤繋がりとでもいうのかな、それで常盤御前が捕まった場所って伝承がいつのまにかできた、と考えられている。

その伝承を石碑としてここに残し定着させてしまったのが、明治時代の陸軍工兵第十六大隊の大隊長・佐藤正武氏だ。こんなの建てるなんて彼、歴オタだったんだろうな(笑)知らんけど。

しかも、ただ石を一本立てて終わりではない。石碑の裏面には、従四位勲二等・岩崎奇一の題と漢詩が刻まれている。2010年、この団地のお隣の伏見合同宿舎の建て替えの際にここに移設された。

「常盤御前就捕処」から更に徒歩数十秒、市営桃陵団地の入口がある。その道路沿いの入口の一角、極々一部が石積み+板塀風になっていて、その前には「伏見奉行所跡」と彫られた石碑と、昔風の味のある木の看板にその説明が書かれている。ここだけみると超一流文化人だった風流な小堀遠州がつくった奉行所の雰囲気をだして頑張ってるんだなぁと感じる。

しかしその風流な石積み+板塀風はすぐ終わりその先は、普通のしょっぼい鉄パイプやコンクリート壁になっていて、一気に膝から崩れ落ちそうになる。

小堀遠州は、茶道・遠州流の祖であり、庭園や建築にも才を発揮し、和歌や書にも通じたマルチタレント大名だった。そんな遠州が新たに築いた奉行屋敷には、なんと茶室が3つもあり、伏見城の礎石を使った庭園まであった。

普通の役所っぽくないかなり風雅な奉行所で、三代将軍・徳川家光も訪れ、その庭園に感心したと伝わる。遠州は20年以上ここで奉行職を務めた。

その雅な伏見奉行所は、伏見町と周辺8か所村を治めた。遠国奉行の一つで、交通・水運の要衝だった伏見を治める重要な役所だった。民政・裁判・伏見港(京都〜大坂の水運の要)の監視、西国大名の参勤交代のチェック、御所の警備にも関わった。敷地もかなり広く、実質的に「城」のような防衛機能を備えた巨大な施設だった。

最後の伏見奉行・林忠交が慶応3年(1867年)6月に亡くなって、その後すぐに奉行職自体が廃止され京都町奉行に吸収された。以降、奉行所としての役目を終えた。

慶応3年12月16日、そこに入り込んで本陣を構えたのが新選組と会津藩兵だ。遠州が作った風流な茶室3つも、刀砥いだり、銃の手入れをしたり、お酒を飲んだり、寝たり、そんなことにでも使われたのかもしれない。「綺麗さびの茶室で一服」なんてどころじゃなかっただろうし。

2日後の12月18日、新選組局長・近藤勇が二条城から伏見街道を騎馬で帰る途中、肩に銃弾を受け、重傷を負った。襲撃の首謀者は、11月の油小路事件で新選組に暗殺された伊東甲子太郎の一派。薩摩藩伏見屋敷に匿われていた彼らは、復讐の機会を狙っていた。

年明け1868年、ついに鳥羽・伏見の戦いが勃発 。すぐ北にある御香宮神社 に陣を構えた薩摩藩の大砲・新式鉄砲と激烈な銃撃戦を繰り広げた。建物が激しく炎上し、跡形もなく焼失。新選組が敗走を開始した戊辰戦争の緒戦・鳥羽・伏見の戦いの激戦地でもある。

小堀遠州のお洒落役所、幕末の決戦地、新選組の激闘。今は団地、というのがなんとも歴史の残酷さを感じる。遠州の庭を返してくれ。

Googleマップ:旧伏見奉行所の石垣/常盤御前就捕処/伏見奉行所跡
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