龍神巡り~静寂の水鏡 龍が棲む龍王ヶ渕

龍神巡り~静寂の水鏡 龍が棲む龍王ヶ渕

🦌 奈良県の史跡

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細い山道を下りきった先に、突然水面が現れた。
「通行料10万円ね」と笑った地元のおじさんの言葉を思い出す。
そこが龍王ヶ渕だった。

山の中に、静かな水面がぽつんと現れる。
龍王ヶ渕。

古くから水神(龍)が宿る池として大切にされてきた場所だ。

山からの湧水が窪地にたまってできた自然池で、標高530メートルという高い場所に水が湧き出している。昔の人が神秘を感じたのも無理はない。龍王ヶ渕は、龍神が泳ぐとされる八つの深い渕や池「八海」の一つともいわれている。

額井岳をのぼっていくと、眼下には見晴らしのよい景色が広がる。やがて車一台がぎりぎり通れるほどの細い道に変わり、さらに下っていく。すると、道をふさぐように何台か車がとめてあった。その先では、年配の男性たちが落ち葉を掃き集め掃除をしている。

車を降りて聞いてみた。
「龍王ヶ渕ってこっちでいいのですか?」

「あぁそう、ここ行くとあるよ。通行料10万円ね。」
と笑いながら言われた。そして車の逃げ場までバックで下がり、道を空けてくれた。どかせた車はざっと4台ほど。こんな山奥で出会う人の親切が、なんだか嬉しい。

粉雪がチラチラと舞っていた。

やがて龍王ヶ渕が見えた。

こんな美しいところがあるのか。
龍が棲んでいると言われても、思わず信じてしまう。

池はかなり深そうだ。静かな湖面がきらきらと光っている。訪れている人は誰もいない。あたりは静まり返り、神秘的な空間が広がっていた。

風のない日には湖面が鏡のようになり、上下の境界がわからなくなるほどの絶景が見られるらしい。この日はわずかに風があり、水鏡とはいかなかったが、それでも十分に美しい。

「呼ばれた人だけが行ける場所」という言葉があるが、道の険しさを思うと、この龍王ヶ渕こそがそういう場所なのかもしれない。

池の周囲には湿原が広がり、遊歩道が整備されている。
その景色を見ていると、那須の沼ッ原湿原がふと脳裡に浮かんだ。

今は3月上旬。草はまだ枯草色だが、春や夏には一面の緑になるのだろう。秋には紅葉が湖面を彩り、雪の日もまた格別に美しいに違いない。

池のほとりには、堀越神社(龍王宮)が建てられている。
背の高い二本の木が、お宮の前に第二の鳥居のように立ち、静かに守っている。ここには水の神様、豊玉姫命が祀られており、今でも地元の人たちの大切な信仰の場となっている。

昔、この地域がひどい日照りに見舞われたとき、村人たちは松明を手に「雨たんぶり、たんぶり」と唱えながら池の周りをぐるぐる回って雨ごいをしたという。

すると池に棲む龍神が必ず雨を降らせてくれた――そんな言い伝えが残っている。

この地域には「龍王講」という、池を守り信仰する住民の集まりがあった。空海や高僧を招くのではなく、ここに暮らす人々が自分たちで雨ごいを行っていた。自分たちで生きていくしかない山の暮らし。雨が降らなければ、本当に困る。 日照り続きで困った時も命懸けて自分たちで龍神様にお願いをした。

龍王ヶ渕に来ても、お金を使う場所はどこにもない。あるのは御賽銭箱だけだ。もしかすると、この秘境を守るため、あえて観光地化していないのかもしれない。

龍王ヶ渕。
ここはきっと、一生忘れられない場所になる。

ちなみにこの辺りは電波も弱い。
スマートフォンの接続はほとんど頼りにならない。

けれど、こんな秘境に来たときくらい、外との通信を少し忘れてこの静けさに浸るのも悪くない。

Googleマップ:龍王ヶ渕

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