静かな家老屋敷に残る、改革と処断の記憶

静かな家老屋敷に残る、改革と処断の記憶

🏞️兵庫県の史跡

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出石家老屋敷 — 静かな建物に残る、藩政の緊張

辰鼓楼の裏手に「出石家老屋敷」がある。出石城内にあった上級武士の居宅で、明治9年(1876)の大火の中、焼け残った建物の一つだ。白亜の土塀と長屋門を備えた書院造りの屋敷で、外観は平屋に見えるが、実際には二階を備えた珍しい構造になっている。

この家老屋敷は、江戸時代の三大お家騒動の一つ「仙石騒動」の中心人物、出石藩筆頭家老・仙石左京の屋敷跡とされる場所に現存する建物であることから、「左京屋敷」とも呼ばれている。


仙石騒動 — 同情と統治、その狭間

仙石騒動は、改革派と保守派の対立、そして藩の存亡をめぐる緊張が一気に噴き出した事件だった。

出石6代藩主・仙石政美が家督を継いだ時、藩の借財はすでに約6万両に達していたとされる。政美は財政再建を担わせるため、仙石左京を重用し、一方で保守派の仙石造酒らを退けた。しかしこれにより藩内の権力争いは激化し、改革派と保守派は鋭く対立することになる。

そんな最中、政美は跡継ぎを定めないまま急死した。当時、大名家が後継者を立てずに断絶することは、すなわち改易を意味する。左京は藩を守るため、政美の死去を幕府に報告するのを遅らせ、後継問題の処理を急いだとされるが、その対応は結果として重大な疑念を招いた。

幕府に無断で後継を立てようとしたのではないか、異論を唱えた藩士を強引に排除したのではないか――そうした訴えは密かに幕府へと届けられ、長期にわたる調査の末、左京を含む多くの藩士が厳罰に処されることとなった。出石藩もまた、石高を5万8千石から3万石へと大きく減らされる。

改革を進めようとした左京には同情の余地がある。一方で、もし自分が江戸幕府という支配の側に立っていたならば、前例を許さぬために厳しい処断を下しただろう、とも思う。仙石騒動は、個人の善意と統治の論理が鋭く衝突した事件だった。


大名行列という「見せる政治」

家老屋敷内には、当時使われていた調度品や資料が展示されている。その中で印象的だったのが、大名行列に関する展示だ。

参勤交代の大名行列は、幕府によって規模や装備が細かく定められ、行列の統制は藩の統治能力を示す指標でもあった。格式張った、厳粛なものというイメージを抱きがちだが、実際には意外な一面もあったらしい。

行列の先頭を務めたのは、藩主の身の回りの世話や荷物運びを担った下級武士や足軽で、「奴(やっこ)」と呼ばれた人々だ。彼らの中には、槍や挟箱を投げ上げたり、腰を落として練り歩いたりする「槍振り」を披露する者もいたという。まるで祭りの行列のような華やかさで、人々の目を楽しませた。

娯楽の少ない時代、参勤交代は沿道の人々にとって一大イベントだった。見る側が沸けば、演じる側もまた張り切っただろう。こうした槍振りは現在も継承され、豊岡市の民俗無形文化財に指定されている。当時「勇壮華麗」と評された出石藩の行列は、石高3万石という規模を超えた演出力を持っていたのだろう。


隠し二階と逃げ道

屋敷の最大の見どころは、外からは存在が分からない隠し二階だ。ロフトに上がるような急で狭い階段を上がり、使用後は階段そのものを引き上げ、天井板で覆ってしまう仕組みになっている。下から見ても、二階があるとはまず気づかない。

二階には12畳と7畳の二間があり、会議の場としても使われたという。主座の脇には小さな丸窓が設けられ、座ったまま人の出入りを確認できる工夫も施されている。

さらに興味深いのが、非常時の逃走路や密かな出入り口として使われたとされる押し入れだ。一見すると普通の押し入れだが、内部は足場として十分な強度を持ち、屋根伝いに外へ出られる構造になっている。使う機会がないに越したことはないが、思わず「自分の家にも欲しい」と思ってしまう仕掛けである。


静かな建物に立ち上がる気配

出石家老屋敷は、派手な展示があるわけではない。それでも建物の中を歩いていると、江戸時代の出石藩に身を置いているかのような感覚を覚える。ここで交わされた密談や葛藤、そして決断の重みが、静かに空気の中に残っているように感じられた。


辰鼓楼のすぐ裏手に位置する「出石家老屋敷」。出石城下を歩くなら、城跡とあわせて立ち寄りたい場所だ。城下町の喧騒から一歩外れたこの建物に、かつて藩の運命を左右した緊張が潜んでいる。

Googleマップ:出石家老屋敷

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